
アンティークには一体いくつの引き手の種類があるのでしょうか。
そのバリエーションの豊かさは職人たちの美に対する追求心の現れであると感じます。
引きやすさという面と芸術品のような造形を兼ね備えた引き手に今回はフォーカスして参ります。

まずは、ミュージックキャビネットの引き手です。
上部の透かし彫りはアカンサスや唐草を思わせる左右対称のクラシックな意匠です。
ドロップ部分はコインのように丸く愛嬌のあるフォルム。
表面には鋳造ならでは質感と凹凸がそのまま味わいとなって表れています。
このぽってりとした厚みと確かな重みは、指先で触れるたびに
どこか温かみを感じさせてくれます。

次にこちらはアールヌーヴォービューロブックケースの引き手。
持ち手部分には真鍮を叩いたような跡が残り、太さも下部にいくほど
厚みをもたせ、指に馴染み、引き出しやすい機能的な造形をしています。
下部にちょこんとあしらわれた蕾のような小さなアクセントは、
ステンドグラスの植物モチーフと静かに呼応しているかのよう。
一見すると独立した小さな金具の中に、家具全体のストーリーと呼応する
密かな繋がりを発見できるのも、アンティークの尽きない魅力です。

今度は重厚感のあるレザートップデスクに付いている華やかな引き手。
両脇のバックプレートは、菊や太陽の光輪を思わせる
放射状の花弁が透かし彫りで表現されており、
隙間から覗く艶やかな木肌との重なりが優美な陰影を生み出しています。
優美な弧を描くアームには、アカンサス葉の彫り込みが、そして中央の握り部分には
立体的な格子文様が施されています。指を添えたときに滑りにくく、
艶やかな杢目の家具にこれ以上ないほどの風格を添えています。

最後にご紹介するのはチェストの引き手。
奥のバックプレートには花弁の透かし彫りが施され、中央のレリーフと一体
となり、大輪の花を咲かせているように見えます。その周りを囲む
外枠の持ち手へと視線を移すと、細長い小葉が整然と連なり、
一番下の中央には小さな木の実がぎゅっと束ねられています。
これは古代ギリシャ・ローマの栄光を象徴する「月桂樹の冠」をかたどった
伝統的な意匠。新古典主義の時代に愛されたモチーフであり、
貴族たちのステータス・トレンドとして流行していたのです。
また、興味深い点はこのチェストには新古典主義の要素は見受けられず、
洗練された佇まいをしています。あえてこの華やかな引き手を合わせることで、
当時の人々は様式を超えたミックススタイルを楽しんでいたのかもしれません。
今回は4つの引き手に焦点を当ててご紹介してまいりました。家具全体を眺めた時、
引き手は心地よいアクセントとなり、佇まい全体を引き締めてくれます。
しかし、一つひとつに目を向けてみると、細やかな装飾や温もりのある
質感が宿っており、当時の職人が丁寧に仕立てていた姿が目に浮かびます。
まさに小さな芸術品であり、ゆっくりと鑑賞する楽しさを秘めたパーツです。
そして、アンティークの引き手を観察していると、先ほどの引き手のように
家具本体の製作年代と金具の様式が綺麗に一致しないケースに出逢うこと
があります。実はかつてのヨーロッパにおいて、真鍮は非常に高価で贅沢な
素材でした。木部が傷んだり流行が変わったりして家具を作り直す際にも、
美しく細工された真鍮の金具だけは大切に取り外され、
新しい家具へと受け継がれていくことが珍しくありませんでした。金具の裏面の
鋳造痕やビスの形状あるいは文様のルールから金具自体の時代を推定していくと、
「前の世代から受け継いだ大切な金具に合わせて仕立て直された家具」
という物と人を巡る深いストーリーが見えてくることがあります。
引き手ひとつ取っても、非常に奥深い世界が広がっています。
ぜひ、店頭や日々の暮らしの中で、形や質感の違いを見比べながら
当時に想いを馳せ、お気に入りのおひとつを探してみてください。







