このキャビネットには、5段の引き出しがあります。書類や小物のためではなく、
もともとは楽譜を収納するために作られたものです。

19世紀後半のイギリスでは、中産階級の家庭にピアノが広く普及しました。
家族で歌い、演奏する時間が、日常の楽しみとして定着した時代です。

楽譜は薄く、かさばりやすく、丸めたり折ったりすると傷んでしまいます。
この課題に応えたのが、浅く広い引き出しを重ねたミュージックキャビネット。
1段ずつ楽譜を平らに保管でき、必要な曲をすぐに取り出せる設計です。
ピアノの脇に置かれ、演奏する人の手の届く場所にあるのが定位置でした。

このキャビネットには、当時ヨーロッパ全土を席巻していたアール・ヌーヴォーの影響が見られます。
直線的で堅苦しいヴィクトリア朝の家具から一歩離れ、植物のような有機的な曲線を取り入れたスタイルです。
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