
シンプルなのに、なぜか惹かれる。
北欧家具の魅力は、そんな“さりげなさ”にあります。
1940〜60年代、「人のためのデザイン」という考えが、北欧で根づき始めました。
その代表的な存在が、ボーエ・モーエンセンとフィン・ユールです。
実用性を極めたモーエンセンと、彫刻的美を追求したフィン・ユール。
異なるアプローチながら、彼らの作品は今なお新鮮です。

BORGE MOGENSEN
ボーエ・モーエンセン(1914–1972)は、
デンマークの家具デザイン黄金期を代表するデザイナーであり、
「庶民のための家具」を理念とする実用主義の体現者です。
厳格な機能分析と構造合理性に基づくデザイン哲学を受け継ぎながら、
温かみと人間味のあるプロダクトへと昇華。
無駄を削ぎ落とした端正なフォルム、堅牢な構造、
素材の美しさを活かす設計によって、
長く使える“生活の道具”を数多く生み出しました。
このスパニッシュダイニングチェアは、
彼がスペイン南部で出会った
伝統的な椅子にインスピレーションを得て、
1964年にデザインを完成させました。
厚革のサドルレザーとオーク材の構造は、堅牢でありながら、
使うほどに柔らかく、人に馴染む。
背と座を包み込むようなレザーの面は、
視覚的にもどこか安心感を与えます。
「実用性」と「構造美」
それが、スパニッシュダイニングチェアの真骨頂です。
モーエンセンの魅力は、派手さを排した中にある緻密なバランス感覚。
無駄を削ぎ落としながらも、どこか人間的で、
時代に左右されない佇まいです。

FINN JUHL
フィン・ユール(1912–1989)は、20世紀ミッドセンチュリー期を
代表するデンマークの家具デザイナー。
建築家としてキャリアをスタートしながらも、
家具に彫刻的アプローチを持ち込んだことで、
北欧モダニズムに新たな美的価値を加えました。
彼のデザインは、有機的で流れるような曲線が特徴的です。
人間の体に寄り添う構造と、芸術的な美しさを見事に体現しています。
フィン・ユールは、家具に“動き”を持ち込んだ
最初のデザイナーだと言われています。
その代表例ともいえるのがこのBO46ソファ。
BOVIRKE社のために設計されたこのソファは、彼の特徴である
「浮遊感のある構造」と「人体のフォルムを意識した曲線美」が
色濃く現れています。
背と座を分離したように見せる設計、
細く繊細な脚部、そして有機的なフォルム。
まるで“空間に置かれた彫刻”のように見えながら、
実際には驚くほど快適な座り心地を提供します。
一見、対照的な彼らの家具ですが、根底には
「人の暮らしを豊かにするためのデザイン」という共通の信念があります。
それぞれの道を極めた二人が残した名作は、
今なお私たちの暮らしに深い問いと豊かさを与えてくれます。