Lloyd’s Antiques

Journal

ロイズ・アンティークス ファクトリー 2022.05.28

販売スタッフによる、チェアの張り替え体験  ~前編~

チェアの張り替えのご依頼は、レストアのメニューの中でも最も多く、
買い替えるか、修復して使い続けるかと、
皆様にとっても一番「サステナブル」を身近に感じるタイミングでは無いでしょうか。
 
 
 
 
先日、販売スタッフの私が、弊社ファクトリーにて、私物のチェアの張替えに挑戦して参りました。
全く初めての経験ではありましたが、その模様を通して、少しでも構造の理解に繋がれば幸いです。
 
今回ご紹介するものは、スプリングやウェービングを有していない、板座と呼ばれる最もシンプルな構造の座面。
(ベースの板の上にウレタンを置き、その上から生地で張り込む構造)
 
シンプルな作業でありながらも、実際のところは極めて難しく、
レストアラーの熟練した技術を、身をもって体験致しました。
 それではご紹介致しましょう。
 
まず、今回張り替えるチェアは、ハンス・J・ウェグナーのFH4104。
その形からハートチェアと呼ばれており、
独特なフォルムが美しいチェアです。
 
座面はレッドのレザーで張られておりましたが、10年、20年後の経年変化を存分に楽しめるよう、
今回はヌメ革で張り替えていきます。
 
 
まずは、座面を外すところから。
実に無駄のない構造で驚く程シンプルなフレームに、3本のビスで固定されておりました。
 
このように、チェアの座面は数本のビスで固定されている事が殆ど。
これはあくまで座面を動かないようにするだけの役割です。
稀に、座面が外れてしまったというご相談を頂く事がございますが、
度々、チェア本体を移動させる際、座面を持って、
持ち上げてしまったパターンが見受けられます。
この構造をご理解頂ければお分かりかと思いますが、
これらのビスはチェアの重量を支える役割ではありませんので、
移動させる際は、必ずフレームから持ちましょう。
極めて簡単な事ですが、家具を永くお使い頂くポイントは、
ちょっとした家具への気配りなのかもしれませんね。
 
お話が脱線致しましたが、座面はネジを回して容易に外すことが出来ました。
裏面には空気が抜けるよう、穴が空けられ、デニッシュコントロールのシールもキレイに残ってますね。
因みに、座面を外したフレームはご覧の通り。
洗練られたフォルムがなんとも美しいチェアです。
 
さて、それでは「剥がす」作業に移っていきましょう。
まずは、パイビングと呼ばれる、紐状のパーツを外していきます。
 
このパイピングは、縁に打たれたタッカーや切断面などを隠し、仕上がりを美しく見せる役割があります。
 
様々な曲線を描く縁面に正確に打ち込むには高い技術が必要で、仕上がりを左右する重要な工程です。
 
以下の写真のように、クラシックなチェアでは、二連にして用いたりと、
プロダクトに応じて適切なパイピングを使用していきます。
 
 
今回のチェアは、接着剤で固定されていただけでしたので、容易に外す事が出来ました。
 
 
外してみてわかったのは、縁の分だけフレームが彫り込まれており、
パイピングを設置しても極端に飛び出さず、
美しく見える一工夫がありました。
裏面に至るまで、巨匠のデザインへの拘りを感じられる瞬間ですね。
 
 
さて、ここから無数のタッカーとの格闘が始まります。
正直、ここまで細かなピッチで打たれているとは想像しておりませんでした。
 
 
工具を使い、一本一本、丁寧に抜いていきます。
慣れない私は大苦戦。
 
相当な時間を掛け、やっと全てのタッカーを抜き切りました。
レザーを剥がすとご覧の状態に。
 
 
真っ白なウレタンが貼られた状態です。
 
 
この後は、ウレタンを交換し、いよいよレザーを張っていきますが、
今回はここまで。
 
 
座面を外す→パイピングを外す→タッカーを抜く→レザーを剥がす。
これだけの工程ではありますが、実に多くの気付きや、デザイナーの工夫などを感じられるプロセスでありました。
 
後半は、張り込みから、完成に至る模様をお送り致します!
また、6/12(日)には、ロイズ・アンティークスウエアハウスにて、
弊社レストアラーによる、アンティーク、ヴィンテージ家具の修復作業を
ご覧いただける催しを予定しております。
日々のお手入れから、使用に対するお悩み、家具の構造等、
実演を交えながらご説明させて頂きますので、お気軽にご相談下さい。
※詳細は店頭スタッフへお問い合わせ下さい。
 
Tags: